『ドサイグノ トサミナト』津軽弁解説ページ

 この度は、ユ藤バソ『ドサイグノ トサミナト』をお手に取ってくださいましてありがとうございます。皆様より「わけわからん」というお褒めの言葉を数多く頂戴しておりまして、うれしい限りです。

 このページでは、本文中に登場する津軽弁の表現について解説しております。本文の内容を理解していただくと同時に、津軽弁の難解さ、面白さをより感じてくだされば幸いです。

◆p7~9 五所川原

 このシーンは、ドラマCD「madeni listening」に収録されている部分です。ここではあえて細かい解説をせずに、全文の訳“だけ”を掲載します。この文章がどうやったらあんなわけわからん言語になるんだ!?と感じてくだされば幸いです。

 ちなみに、本文中の「おやき」ですが、いわゆる今川焼きのことです。「大判焼き」「回転焼き」「あじまん」など、日本各地で呼び方が異なる食べ物ですが、青森県では「おやき」という呼び方が主流です。

 

店主 「ん、見かけない顔だな?どこから来たんだ?」

熊野 「横須賀からですわ」

店主 「横須賀・・・あ、お前さん、艦娘だね?十三湊に行くのかい?」

熊野 「ええ」

店主 「ああ、それじゃあ(遠くから来て)疲れただろう」

熊野 「…….え?」

店主 「本当に不便なところだからな……悪いね」

熊野 「……あ……はい……」

熊野 (今、何とおっしゃっていたのかしら……)

 

常連 「おーい、来たぞー!」

店主 「おー!久しぶりだな!元気だったか?」

常連 「いやいや、腰の調子が悪くてまいったよ」

店主 「あちゃー、じゃあ、畑はどうしているのさ」

常連 「家内がやってくれてるよ」

店主 「本当に優しい奥さんだなあ。うちの嫁なんて、小言ばかりで、何もしてくれないぞ?」

熊野 (えの……かが……?空母の加賀さんの話をしているのかしら...)

 

常連 「お、かわいい女の子来てるじゃん!こんなにかわいい子が来てるなら、油揚げひとつくらいサービスしてやれよ!」

店主 「お前、俺の店にそんな余裕がないのは知ってるだろ!」

常連 「ははは、そうだな!どれどれ、(隣のおやき屋に向かって)じゃあ、お母さん、お金は俺が出すから、この女の子におやきをあげてくれよ!」

店主 「まーた、かっこつけてる」

常連 「うるさいなあ、女の子は大切にしないとダメなんだよ!ほら!食べな!」

熊野 「あ、ありがとう……ございます……」

 

放送 「木造・車力経由、十三湊行き入りましたのでご乗車願います」

店主 「ほら、バスが来てるぞ、乗りなさい!」

熊野 「あ……ごちそうさまでした」

常連 「おう、気をつけて行けよー!」

熊野 (今のおじ様方は一体なんでしたの!?何を言っていたのか全くわかりませんでしたわ!海外の泊地に行くわけでもありませんのに……ま、まあ泊地に着けばこんなこともないはずですわ……)

◆p11 十三湊泊地に到着

 衣笠が突然津軽弁になってしまうシーンです。気を遣って共通語を話していても、いざ津軽弁の人が目の前に現れると、津軽弁になってしまうのが性なんです。

 

11-4・ながまる〔動〕

 (足を延ばして)休む。

 

11-4・にふぇぐに号室

 202号室。「百」が訛ると「ふぇぐ」になってしまう。

 

11-4・おたってまる〔動〕

 疲れてしまう。

 

11-4・たなぐ〔動〕

 運ぶ。

 

11-4・ばげまままで

 「ま」が連なっているが、ばげ/まま/まで で区切れる。

 「ばげ」=夕、晩 「まま」=ご飯 であり、「ばげまままで」=夕食まで。

 

11-4・めやぐだ〔形動〕

 申し訳ない。

 相手に手間をかけさせてしまう申し訳なさと、引き受けてくれた感謝を伝える表現。

◆p13~14 十三湊泊地工廠

13-2・までに〔副〕

 丁寧に。じっくりと。

 ドラマCDのタイトル「madeni listening」もここから取っています。ぜひ、までに聞いてくださいね。

 

13-3・まね〔形〕

 悪い。ダメだ。

 

13-4・じぇんこ〔名〕

 お金全般を指す。「銭っこ」の変形。

 

 津軽のお店を訪れた外国人。商品を手に取り、うっかりお金を払うのを忘れてお店から出ようとしたところ、店主のおばちゃんが一言「まね!」、その外国人は「Oh!Sorry!」と言ってお金を払ったとか――なんていう笑い話があったりします。

◆p15~16 十三湊泊地近海

 津軽弁の川内と南部弁の北上の言い争いです。青森県内でも、青森・弘前・五所川原などでは津軽弁、八戸・三沢・十和田などでは南部弁と、まったく違う方言が使われています。そんな中、津軽弁と南部弁との間で同音異義語になってしまうのがこの「わがね」。

 

川内「敵影が見えないなあ……偵察機飛ばしてもいいかな?」

北上「いや、今はわがね(=ダメだ)よ」

川内「もう!わがんね(=わからない)ってどうなのさ!考えてよ!このままだとキリがないし、飛ばすよ!」

 

北上「ちょっとちょっと、わがね(=ダメだ)って言ったでしょ!」

川内「なによ!あんたに聞いてもわがね(=わからない)って言うから私が考えて飛ばしたんでしょ!」

北上「わがね(=ダメだ)って言ったんだから、飛ばさないで待ってよ!」

川内「飛ばしたらダメならまね(=津軽弁のダメ)って言ってよ!」

 

 というわけで、北上は「偵察機を飛ばしたらダメだ」と言ったのに、川内は「飛ばしていいかわからないと言われたので、自分で考えて偵察機を飛ばした」、そのために言い争いになってしまったのです。

 

 なお、この「南部弁を話す北上」については、村瀬悠太様のサークル「夕焼けコンテナ。」が制作されました『北上様の南部弁講座』が元ネタとなっています。今回我々がこのように津軽弁を題材にした作品を制作するきっかけにもなった本です。本誌と合わせて読むと、青森県の二大方言はもうバッチリ・・・かも?

◆p18~19 雪の十三湊泊地

 雪国青森のあるあるネタを詰め込んだページです。深雪が深雪にハマって転ぶとかいう寒い洒落もあります。冬だけに。

 ちなみに、白雪が熊野に渡した道具は「スノープッシャー」といい、一面に薄く積もっている雪をブルドーザーのように寄せるものです。

 

18-1・わい〔感〕

 良いものに対しても、悪いものに対しても、とにかくあらゆるときに使える津軽弁の万能感動詞。陸奥の口癖である「あら、あら」を「わい、わい」と置き換えている。

 

18-2・かちゃましい〔形〕

 うっとうしい。

 

18-6・やぶこぐ〔動〕

 雪が深く積もっている場所を歩いていくこと。

 

18-8・すたはんでへったべや……

 「だから言ったのに……」慣用的な表現。

 

19-5・しかへる〔動〕

 教える。

 

19-7・でらでら-と〔副〕

 道路などが滑りやすくなっているさま。

 

19-8・わんつかばし〔副〕

 ほんの少し。

◆p23 一年後、横須賀

 油断した熊野の口から津軽弁が出てしまうシーンです。ふとしたときに万能感動詞の「わい」が出てしまうようなら、あなたも立派な津軽弁ユーザーです。

 

23-2・まがす〔動〕

 こぼす。

 

23-4・めぐせ〔形〕

 恥ずかしい。